この数年マチュー・ガニオとドロテ・ジルベールに取材するたびに、2人は日本で『トリスタンとイゾルデ』を踊りたいと熱く語っていた。ワーグナーのオペラの調べに乗せ、中世の悲恋物語を2人きりで濃密に描く約1 時間のバレエ。2014年、2人のために特別に振付けられたものだ。その舞台が2018年1月、いよいよ日本で実現する。
振付のマンチーニはベジャールの20世紀バレエ団で舞台に立ち、現在はイタリアを中心に活躍するコリオグラファー。ガニオはかつてマンチーニが振付けたソロ『それでも地球は回る』を披露しているが、どこか内省的な翳りを帯びた振付はガニオにとてもよく似合っていた。トリスタンは「哀しみの子」という意味。その艶やかな踊りが舞台をメランコリックな色に染め上げていく―― ガニオほどトリスタンにふさわしいダンサーはいないだろう。最近円熟味を増しつつあるジルベールも、情熱的なイゾルデに似つかわしい。2人の共演に期待が高まる。

今回マンチーニはオペラ座の新星ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、オニール八菜の3人に新たなバレエを振付けるという。音楽は同じくワーグナーの『ヴェーゼンドンク歌曲集』。『トリスタンとイゾルデ』を作曲している時期、ワーグナーはマティルデという女性と恋愛関係にあった。彼女は当時のワーグナーのパトロン、オットー・ヴェーゼンドンクの妻。
トリスタン、イゾルデ、マルケ王の関係は、ワーグナー、マティルデ、オットーの関係にそのまま重なる。オペラの作曲と並行してワーグナーはマティルデが書いた5つの詩に憂愁と美に満ちた音楽を寄せた。それがこの『ヴェーゼンドンク歌曲集』だ。 
『トリスタンとイゾルデ』と『ヴェーゼンドンク歌曲集』、響き合う2 つの愛の物語をオペラ座のスターが競演する。特別な一夜になるに違いない。

新書館「ダンスマガジン」編集委員 浜野文雄





トリスタンとイゾルデについて

ヴェーゼンドンク歌曲集について

 









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